忘れえぬロシアへ②

さてBunkamuraへと到着。

美術展の内容は比較的さっくりとしたものだったかと。意外に早く出口に到着してしまい、また逆戻りして、気になる作品を見直しに行ったりしました。

とは言え、ロシア芸術に史残る重要作や、ご当地発の美術作品ならではの興味深い作品の数々が凝縮されたものになっていたかと思います。古くは19世紀初頭のものから、19世紀後半から20世紀初頭へかけて描かれた、ロシアを代表する画家の作品で占められております。

芸術についての造詣が深くないので、印象に残った作品などをかいつまんで。

超写実主義、シーシキンによる超絶技巧を駆使した作画には毎度目を奪われます。「まるで写真!?」と言うほど緻密な筆さばきが見事。後年は印象派の影響を受けて叙情性が増して行ったのが興味深いところです。

もちろん巨人クラムスコイは言うに及ばず。特に今回、女性を描いた2作品が印象的でした。

今度の美術展のタイトルにも引っ掛けられている「忘れえぬ女」は、ロシア版の「モナリザの微笑」として名高い名作中の名作。モデル不肖。トルストイやドストエフスキーの作品に登場する人物にも例えられる、普遍的ロシア貴婦人と言ったところなのでしょうね。下々を見下ろすその視線が実に艶っぽいです。

そしてもうひとつ、「髪をほどいた少女」も素敵な一枚。想像するに、「ポニーテールをほどいたばかりの少し乱れた髪」に思い入れたっぷり、と言った感が。つまりはそこに「萌え」がある、と(笑)。

いつの世も男子感ずるところ違わず。ポニテ好きは、ポニテをほどいた直後の乱れ具合も愛す、とは言えまいか。どうもすみません、芸術作品に大して下品な物言いでしたでか。ともあれ憂いを帯びた眼差しは実にロマンチック。

有閑貴族の日常生活を描いた、正に「チェーホフな情景」を描いた作品群も楽しかったですね。まあ優雅なこと。登場人物たちが躍動感たっぷりに描かれたキャンバスは、ときに漫画チックでさえあるユーモアまで発散していた気がします。

今回の展示で特に収穫だと思えたものに、異端と評されるクインジによる「エルブルース山-月夜」が上げられます。青の濃淡によって描かれる闇夜の中、月明かりに照らされた一角の雪山がぬっと浮かび上がっている。なんとも呪術的で幻想的な一枚。遠くから眺めても、これだけ妙に目を惹くのです。得たいの知れぬ魔物が潜んでそうな怪奇的な風景でした。

レヴィタンの「たそがれ-干草」も、印象派の影響を受けたおもしろい一枚でした。積み上げられた麦わらって、ロシアの風景画でよく描かれるモチーフです。

ロシア美術の特徴として「道」をテーマにした作品があります。ここでもアルヒーポフの「帰り道」や、巨匠カーメネフ「冬の道」、ブリャシニコフ「空っぽの荷車」などが展示されてました。これらの絵にはみな「橇」か「馬車」が描かれていて、どれも雄大なロシアの大地を実感させるものばかりです。

画家同士で肖像画を書きあったり、著名な作家を描いたり。または自分の家族などをモチーフに、そのような肖像画がもてはやされていた時代でもありました。これほどまでに素晴らしい絵を描く巨匠たち、彼らの容貌も確かに興味あるところ。

クラムスコイが描いたシーシキンはまるで冒険家のよう。ポレーノフが描いたレーピンの肖像は学者のような佇まいを見せ、クラムスコイ自らの自画像は才気溢れるインテリゲンチャと言った趣きでハンサムですね。個人的には知的なデスメタルの人のように見えました(笑)

レーピンが描く家族の肖像画には、愛情いっぱいの感があります。「あぜ道」にての牧歌的な情景。長女ヴェーラを描いた「秋の花束」は生き生きとした表情が捉えられ、また絵画的なバランスにも卓越したものがあるようで、しばしキャンバスの前から立ち去ることが出来ないほどでした。もし私が億万長者であったら、見た瞬間に値段も訊かず、「買った!」と言ったかも知れません(笑)

19世紀も後半になると、当時席捲していた印象派の波がロシアへも流れ込んで来ます。しかし元来リアリズムを追求して来たロシアにあって、かつての手法が一朝一夕に消滅することはなかったのでしょう。

従って、ヴィノグラードフ作「農婦たち(女友達)」のように、<印象派だけど写実的>と言った風な、一見アンバランスな作風が見られるようになります。しかしこの技法はロシアの風土にはマッチしていたようで、新たな作画としてロシア絵画が独自の発展を遂げる糧となったようです。

そんな中で物議を醸し出すこととなる、ボリソフ=ムサートフ「5月の花」と言う作品が発表されます。明るい日差しの中でボール遊びをする2人の少女。のどかな風景のように見えますが、簡略化した線や独特の構図など、眺めている内に何か不気味なものに感じてくるから不思議。白昼のホラーのような雰囲気を、私は感じてしまいました。でも好きな絵のひとつ。

正に印象派と言った趣きがあるコローヴィンの「ヤルタのカフェ」は見る者をほっとさせます。かたや同じ技法、同じ作者なのに、「魚」はダイナミックな色使いでポップな印象です。この違いが面白いですね。

この他、キルギスの大道芸人を描いたヴェレシャーギンによる「キルギスのきらびやかな鷹匠」も良い絵だったし、ロシアの秋を描いたオストロウーホフ作「黄金の秋」の鮮烈さも印象的。

極寒のロシアに降る雪のふんわりとした感触まで描き出した、ドゥボフスコイの「冬」。力強く溌剌とした健康美に溢れながら、女性らしい魅力を湛えているカサトキンの「女鉱夫」など、感銘を受けた作品は枚挙にいとまがありません。

先に開催された「国立ロシア美術館展」などと合わせて参照すると、中世から近代へ渡るロシア美術の流れを総括できる具合になっているのですね。

私の知るところに寄れば、この後ロシアにもアールヌーヴォが訪れ、そしてロートレックらに代表される西欧モダニズムの洗礼を受けた後、いよいよ「いざロシア・アヴァンギャルドへ!」と言う流れになっていたかと思います、多分。

お馴染みのプロパガンダ・ポスターが横行し、絵画の世界では政治色が強くなり、構造主義なるものがはびこることに。17世紀末まではイコン画などしかなく、美術後進国であったロシアが遂に世界の先頭に立つ日を目前に控える、といったところですか。ふぅむ。

知識をひけらかしたと思ったが、むしろ無知を露呈する結果となったらこっぱずかしいので、ここらで知的財産の押し売りはやめておきましょう。まあ、私がこれまで勉強してきた事柄のまとめだと思ってください。

何か不備がありましたら、ご指摘ご教授、歓迎致します。所詮つまみ食い程度の人なので、あまり目くじらを立てないで頂きたいところ(笑)

いやぁ。ゲイジツって、やっぱりイイもんですね!

トレチャコフ美術館展

@ちぇっそ@
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タグ : トレチャコフ美術館展

2009/05/16 19:10 | 芸術探訪COMMENT(0)TRACKBACK(0)  

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