「ジグソーマン」 ゴード・ロロ(扶桑社ミステリー)

マッチならぬ、腕を売る男

「あなたの腕、200万ドルで売ってくれませんか」

そう尋ねられたらどう答えるだろうか。特に生活にも困っていない、今の収入なら細々ながらやっていける。家族もある、息子の養育費も馬鹿にならない。と言った状況であるならば、いくら大金と言っても腕と引き換えにする理由にはならないだろう。

その後、待ち受けている長い人生を考えるなら、腕を失うリスクの方が高いと考えるのが当然。しかも痛い。いや手術では麻酔が使われるだろうが、見た目が憐れを誘うという点で。

しかもそれがきちんと手術されるのかどうかも怪しい。マフィアか暴力団か、誰かのヘマの肩代わりに自分の腕が買われた・・・「腕前を買う」のではなく「腕」そのものが買われた、なんてことだってあり得るかも知れない。

一見すると信頼のおけない話だと言えるだろう。だがもしそれが困窮に喘ぐ状況だったらどうかう。例えばあなたがホームレスだとして。

この物語の主人公は正にそうなのだ。先行きもない、自ら命を絶つ勇気もないから、腹を減らしながら不潔な環境の中で生き長らえるしかない。守るべきものや捨てるものさえも失ったとき、残すは「自分の身」ひとつしかないことに気付されるだろう。

身体を売ってでも金が欲しい。その代わりに200万ドルが手に入るならお安いものだろう。いや、手に入る額は相当なものであるのだが。

主人公の男に声を掛けて来たのは医療機関の関係者である。「その筋の権威」に協力する形で・・・それならば安心できるだろうと踏んだ男は、腕を売る話を受けることにした。しかも片方だけで良いとは実に慈悲深い(?)

本作の何が「ジグソー」なのか。その点を留意してページを開くべし。主人公を襲う身体的苦痛は常軌を逸している。そしてその痛みこそはこの作品がホラーであることを体現する最大のファクターとなっている。

主人公は常に「選択」を迫られる。時にそれは残酷な結果を招くこともある。しかしそれでも選択し続けなければならない。選択の枝葉が細分化し、もはやこれ以上枝分かれする余地がなくなったとしても。

事実、主人公は選択すら不可能な状況に追いやられることになるのだが、それでも尚、選び続けることを余儀なくされるのだ。そうこれはホラーやスリラーである以前に「選択する物語」であると言えるだろう。

その選択は最後の一行まで続く。一体この物語はどのような結末を向かえるのであろうか。

強烈な読後感。激しい余韻。

筆舌に尽くし難いこの感覚は、かつて一度だけ経験したことがあるような気がする。映画「バタリアン」を初めて観たあの日。虚無感とカタルシスがない交ぜとなった複雑な感覚。

ホラーとしてこれ以上はないと思わせるエンディング。一人の男が選んだ人生がここに集約されていたと言って過言ではないだろう。

これをお奨めの小説だと紹介したらただの悪趣味だと思われてしまうかも知れないが、先ずそれ以上に、この物語はとてつもない感動に満ちた長編であることを主張して筆を置くことにする。


@ちぇっそ@
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2016/06/12 21:43 | 読書感想COMMENT(1)TRACKBACK(0)  

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