「分解された男」アルフレッド・ベスター


「八だよ、七だよ、六だよ……≪もっと引っぱる、≫いわくテンソル、緊張、懸念、不和が来た!」

<覗き屋>の超感覚者どもめ、俺の心を読めるもんか!できるもんなら捕まえてみるんだな!

エスパーによって犯罪が事前に察知されるようになった社会。そんな中でモナーク物産の社長であるベン・ライクは殺害計画を企てる。相手は競合する企業の社長、クレイ・ド・コートニー。実行不可能な状況で一体どのような手口でもって殺人は成功したのか・・・。
ベスターの第一長編にして、第一回ヒューゴー賞に輝くSFクラシック。いわゆる近未来を舞台にした警察小説、あるいはハードボイルドと言った風情で、粋な会話やテンポの良いアクションでぐいぐい読ませる抜群の娯楽大作。

経済界のトップに躍り出るために、ライバル企業の社長に「協定」を申し入れたベン・ライクは「拒否」の返事を受けた。逆上した彼は「こうなったら殺すしかない!」と考え殺害を計画する。相手を無き者にして自分がのし上がる・・・いわゆる消去法、か?そんな場面から物語は始まる。

これを担当するのがNYの刑事部長であるリンカン・パウエル。彼は超感覚第一級の取得者で、人の心を覗いて真相を探り出すことの達人である(ちなみに能力差がごとに階級が設けられ「一級」が最上位)。

当然、今回も読心能力を駆使して事件に取り組むわけだが、どうしたことか容疑者であるベン・ライクの意識が読めない。彼はどうやら巧妙な精神遮蔽術を使って捜査の手を逃れているのだ。

もはや宿敵とも言える間柄となった二人の男が繰り広げる攻防に、手に汗握るサスペンスが盛り込まれているわけだが、そこは「異色」と称されることの多いベスターのこと、通り一遍の捕り物帳で終わるはずがない。

捜査の中では「老モーズ」と言う、今ならさしずめ人工知能のようなコンピュータも用いられている。様々な物的証拠やあるいは状況証拠を入力することで事件の資質を分析し、それが犯罪として認定されるか否かを判断するのだ。それは極めて客観的なもので、例えば「動機」についてすら矛盾があれば指摘される・・・この設定がすこぶる効いている!

実はパウエルは犯人をほぼベン・ライクだと特定しているのだが(ちなみに読者にはライクが犯人であることはとっくに明白で、あとはパウエルがどうやって証明するかだけ。犯人探しのネタバレではないでご安心下さい)、彼の捜査報告では「老モーズ」が導きだした項目とある一点だけが違うためにライクを検挙することが出来ないでいるのだ。

ここをどのように埋め合わせるかが最大の焦点となってくる。読心術が使えるパウエルは当然ライクの精神も読んでいるのだが、それでも尚食い違いが生じてしまっている。

何故なのか?

ここに「人」と「機械」の違いが関係していることが分かると、「そう言うことか!」と膝を叩くことになるのであります。

ところが話はそれだけではない。べン・ライクは以前から「顔のない男」の夢に悩まされており、これが一体何を象徴するものなのかと言う点も物語の大事な要素を担っている。

これはライクと、彼が殺害したド・コートニーとの関係に由来するものなのだが、これらの真相が一気につまびらかとなる結末では是非とも驚きまくって欲しい。

私などは全く予想できなかったので、もしこのとき私の心をエスパーが読んだならば、それはもう感嘆符「!」でいっぱいだったことであろう。

ベスターの作品の中でもとくに代表作と言えるのは「虎よ、虎よ!」だが、この処女長編も負けず劣らず鮮烈なイメージで圧倒してくれる。いま読んでも充分過ぎるほどに斬新で、同系統の作品ではもうこれ以上のものはないだろうと思わせる。それを最初に書き上げてしまうのがベスターの非凡なところ。

久しぶりに味わう興奮の読書体験だった。


@ちぇっそ@
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2013/03/02 14:45 | 読書感想COMMENT(0)TRACKBACK(0)  

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