「殺人感染」スコット・シグラー


謎の奇病が報告される。それは感染者を狂気に走らせ、猟奇的な連鎖殺人を引き起こすものだった。しかし感染者は例外なく自害してしまい、そして遺体は常識では考えられない速度で腐敗するため、その感染源を特定することは困難だった。人為的な意図すら覚えるこれはテロリストによる生物兵器なのか、それとも全く未知の伝染病なのか。予想だにしない結末が待ち受けている。

史上初のポッドキャスト作家と言うタレコミに話題騒然。スコット・シグラーによるホラー・サスペンス作。

謎のウィルス感染と言うと、マイクル・クライトンなどによるメディカルホラーを想起させるであろう。しかしどちらかと言うと、本作はもっとB級なパニック小説を思わせるストーリーである。

この感染症にまつわる事件を追うCIA捜査官のデュー・フィリップスは、ベトナム戦線上がりの帰還兵だ。質実剛健で現場主義の彼からは、どことなくチャールズ・ブロンソンのような雰囲気が漂う。

フィリップスが女性分析官であるマーガレット・モントーヤ協力の下、謎の病原体を突き止めようとする捜査の過程は、シリアスなサスペンスを楽しむことが出来る。しかしながら途中から作品の傾向が「おかしくなってやがる」と気付くのは、それほど遅くはないであろう。

「トライアングル」と呼ばれることになる病原菌の感染者となったペリー・ドーシーが、助けを求めようとしながらも、病原体がもたらす影響によって次第に狂気を帯びてくるのだ。その描写がエグい。

人体損壊ものの作品は数あれど、それが自傷行為となるとより痛々しさを感じるものである。ペリーは、自分の身体で発症したトライアングルを抉り取ろうと、正にありとあらゆる手を使って、「ありとあらゆる箇所」を痛めつけるのだ。

ペリーによるこの人体損壊描写は実に執拗であり、ストーリーが進むにつれ作品の根幹がこちらに移ってくるのを感じられるであろう。捜査官のフィリップスを置いて、実はペリーこそが本書の実質的な主人公であると気付くことになる。

この「トライアングル」には知性があのだが、それがときにお茶目に見えてきたりする。恐ろしくてタチの悪い感染症で、ペリーを狂気に走らせている張本人がこの病原体あるのに、当の本人たちからは悪意が感じられないのがなんとも可愛らしいのだ。このアンバランスさ、病原体のキモ可愛いギャップになんだか憎めないものを感じたりする。

さて、物語はとんでない結末を迎えることになる。病原体の目的が何かと言うところが問題となるわけだが、なんだこの怪獣大作戦みたいな決着は・・・!と、本を床に叩きつけてやろうかと一瞬そう思ったことは内緒にしておく。

この辺り、クライヴ・バーカーやディーン・クーンツらの長編に見られるB級感がバリバリに漂っている。そう言った意味では、これらの作家と同様に「クトゥルー」へ対するオマージュなども感じる事も出来るだろう。実際の意図は分からないが。

正直なところ、文庫で上下2巻で読むほどの内容であったかと思うといささか首を傾げるところであるが、やはりペリーが出てくる場面は面白い。自傷行為をするペリーの様子に「痛い痛い!」と思いながら読む「嫌な小説」であります。

ポッドキャストと言う形式で、つまりヴォイスブログと言う形で発表し、読者の意見を取り入れつつ創作された物語でありながら、「こんな後味の悪い話、読みたくなかった」と思わせてくれた、たいへんに悪意のある長編であった。


@ちぇっそ@
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2012/12/17 21:49 | 読書感想COMMENT(0)TRACKBACK(0)  

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