「動くな、死ね、蘇れ!」

画面には暴力と犯罪が蔓延している。撮られた素材は未整理のままに放り出され、喧騒と混沌とが溢れ返る。誰もみな叫び、わめき、我先にと小麦を配給する窓口へ殺到する。第二次大戦直後のソ連、そこに帯びているのは圧倒的な熱。火山から吐き出され、まだ炎熱の勢いを湛えたマグマが、海のものも山のものも形成することなくドロドロのまま渦を巻き、全てを飲み尽くさんとばかりに発散されるエネルギーの塊となっている状態なのだ!

もちろんそこには戦争が生んだ悲劇をも渦巻いているに違いない。だがしかし、人々はただ前を向き、頼りない希望の糸を手繰り寄せようと躍起になっている。それとも、もはや後ろを振り返り続けることに厭きただけだろうか。憐憫の情など、生き延びるための衝動で覆い隠してしまえばいい!とでも言うように。

収容所に隣接する極東の町スーチャン。ここに住んでいるのは、どうしようもない不良少年のワレルカである。彼は日々他愛もないいたずらにご熱心。しかしある日、放蕩が過ぎ機関車を脱線させる大事故を引き起こしてしまったことから、彼の運命は風雲急を告げる。

制服姿の男が町で事情聴取を行っている。もうここにはいられないと思ったワレルカは、列車に飛び乗り、祖母が住んでいるウラジオへと向かう。彼はそこでひょんなことから強盗団の仲間に加わることになってしまうのだ。

不平と反逆心とでいつも不遜な態度をしていた少年が、いつしか本当の犯罪者になってしまう。しかしこれはノワールともピカレスクと言うのでもない。ごく短い期間に起こった出来事を切り取った、解決の糸口のない青春物語なのだ。

監督であるヴィターリー・カネフスキーの幼少時代がここに再現されている。それを演じるのは、監督をして「これは、かつての僕だ!」と言わしめた、当時まだ少年だったパーヴェル・ナザーロフ。

脈絡のないエピソードの羅列となったフィルムはしかし、ナザーロフ演じるところのワレルカによってひとつの繋がったストーリーとなる。彼の一挙一動がそのまま叙事詩となる。つまりワレルカこそが物語であり、全ての出来事との関連はことごとく彼へ繋がるのだ。

そしてもう一人の主役。彼の幼なじみガーリヤである。ディナーラ・ドルカーロワ演じるところの役は、ワレルカの母親にも成し遂げられなかったこと、ただ一人彼をたしなめ承服させたことである。

相当に意地の悪いワレルカのこと。彼女も随分と酷い罵詈雑言を浴びせかけられるので、一見してワレルカが優位に立っているように見えるのだが、彼の手綱と取り上手く先導しているのはガーリヤである。このことから、やはり主導権は彼女が握っていると見るのが妥当であろう!

奇異な表現、ショッキングな映像も交え、この映画は充分な話題性を備えている。しかしそれらによって注意を逸らされてしまってはこの映画の本質は見えてこない。ここにあるのは監督カネフスキーの「情動」である。

言いたいことや伝えたいことが山ほどある。それが奔流となってあふれ出した結果がこの映画となったのだ。「何かを読み取れ」と言っているのではない。恐らくは、「ただ感じろ!」と言うメッセージだけが聞こえてくるはずだ。これはカネフスキーを見出した巨匠ゲルマンと共通する映画制作に対する認識である。

ドキュメントの手法を取っていながらそれはドキュメントにあらず。しかし映画は決して芸術にはなり得ない。何故なら映画は「世界」であるから。では「世界」とは何を意味するのか?それは「窓」だ。窓の外を覗いてそこに何があるのかを認めた「あなた自身の目」に相違ない。

それは「現実」と言い換えても良いだろう。しかし果たして現実が「芸術」であったことなどあろうか。否!日々くだらない些事に苛まれる現実が芸術であったことなど未だかつてないからだ。映画とは「情報」の奔流である。芸術はある事物のある一瞬を捉えそれを留めることにあるが、情報とは常に流れているもの。映画は「生き物」であり、「芸術」としてそこに留まることを知らない巨大な怪物なのだから。

「スタート!」と言うカネフスキーの掛け声と共に始まった映画は最後、「カメラはその女を追え!」と言うこれまた監督の指示によって終焉を迎える。メタ的構造をなしている本作はとっくに映画の枠を超えている。否、すでに映画ですらない。

カメラはただ単に光景を捉えただけであり、そしてそれはそのまま「私自身の目となる」。事実とカメラのレンズが乖離していない、何の脚色もない。ただそこにカメラと言う名の「目」があっただけなのだ。

だからカネフスキーは信用できる。


@ちぇっそ@
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タグ : ヴィターリー・カネフスキー

2010/05/02 12:38 | ロシア映画COMMENT(0)TRACKBACK(0)  

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