ドイツとの開戦。ライフラインを破壊され、孤立無援のなか奮闘するソ連中隊。しかし部隊は諜報員を派遣し、常に連絡線を保ってきた。その危険な任務に就いていたのがワーリャ。部隊長であるサフォーノフ大尉が好意を抱いている、うら若き女性である。しかしある時、スパイによって情報が漏洩し、ワーリャはドイツ軍に捕えられてしまう。間もなくソ連軍本体が到着する。作戦の遂行と彼女を救出するため、サフォーノフ大尉はドイツ軍に偽の情報を流す作戦をとる。
「映画におけるスタニスラフスキー・システムの実践」を提唱するプドフキンらしく、俳優陣の演技はみな写実的で、登場人物たちの個性的な性格付けもまた素晴らしい。
映し出される場面は2つある。ひとつはソ連中隊が陣取る前線、もうひとつはドイツ占領下の町である。この町にはサフォーノフ大尉の母であるサフォーノワがいる。そして時々指令を受けたワーリャが諜報員として潜入してくる。この2つの要素によって、前線と町が繋がっている。このように全編に渡って緻密に構成された脚本とプロットが本当に見事だ。
敵軍の弾を避けながら諜報活動するワーニャしかり、そして大尉の母であるサフォーノワもまた自らの良心と正義のため、ドイツ軍による横暴に屈しない姿勢を見せる。このように「戦う女」の姿が、以前にも増して熾烈に描き出されている。男女の別なく力強い「人間」を映すプドフキンと言う監督は、案外とフェミニストなのかも知れない。
ドイツの将校たちは無慈悲に、そして鉄面皮に描き出されている。これの対比として蔑まされるロシアの人民がより人間らしく見える、と言うことはあるだろう。このようにプドフキンは、権力者であったり侵略者と言ったものを、極端なまでのステレオ・タイプとして演出する。
この辺りの真意は分からないが、敵対する者の人間性を排除することによって、主役となる側におけるスタニスラフスキー・システムの効果を狙ったものかも知れない。「プロパガンダ」云々以前に、作品の意図を明確にした高い演出効果がある。
戦闘シーンの迫力は筆舌に尽くしがたい。光と影のコントラストを多用し、「世界の終焉」を思わせる壮絶な光景となっている。絶叫する兵士の顔、または顔。彼らの表情に伺えるのは、真に迫った「恐怖」ばかりである。
戦車の登場するシーンではミニチュアを使用し、その精巧さがまたリアルである。このようにちょっとしたSFXなど盛り込む姿勢も、「モンタージュ」などを実地に学んできたプドフキンの革新性によると言えるかも知れない。
さて、劇終盤に至る。
作戦遂行とワーリャの救出に向かったのは、グローバと呼ばれるサフォーノフ大尉と懇意の盟友である。彼はドイツ軍に偽の情報を流すため、「投降者」として敵基地へ潜入することになっていた。もちろん嘘だとばれれば銃殺。作戦が上手く行っても、情報隠蔽のためにドイツ軍に射殺される運命。任務への旅程は「片道切符」なのであった。
グローバは、彼が「銀のしずく」と呼ぶウォッカを一杯ひっかけ、大声で歌いながら出かけて行く。街へ買い物にでも行くように気軽さだが、その後姿には運命を受け入れた男の哀愁がこもっている。
彼はサフォーノフから言付けを担っていた。ワーリャに会ったら、「おまえの“夫”から、愛している」と伝えてくれと。
作戦は順調に行き、もはや勝ち目のなくなったドイツ軍は敗走の手はずをとっていた。ワーリャたちの捕えられている部屋へとやってきたドイツ兵は自動小銃を構えた。
グローバはワーリャを床にねじ伏せ、自分はドイツ兵との間に立ち塞がる。「さあ、俺に狙いを定めろ!」と言わんばかりにグローバは大声で歌う。ドイツ兵は撃つ。しかしグローバは何度でも立ち上がり銃弾の嵐を浴び続ける。
味方はやってきた。ドイツ兵は打ち倒され、ワーリャは無事に救出された。
無数の風穴が開いたグローバの身体が運び出される。言葉なき帰還、勇気ある死をもって。
<ひとくち感想>
もの凄くいい映画でした!「プドフキン、ここに極まれり」と言った感があるでしょうか。主役から脇役まで本当に魅力的。中でもやはりグローバが最高でした。ネタバレかまわず、思わずラストシーンを書き出しちゃいました(笑)。まあ、あまり見る機会もないと思うので、ちょっとくらいストーリー書いてもいいよね。個人的な忘備録って意味合いも込めて。いやぁロシア映画って本っ当にいいもんですね!
【作品情報】
1943年・94分
監督/フセヴォロド・プドフキン ドミトリー・ワシリーエフ
原作/コンスタンチン・シーモノフ
脚本/フセヴォロド・プドフキン コンスタンチン・シーモノフ
撮影/ボリス・アレツキー ボリス・ヴォルチェク エラ・サヴァリエワ
美術/アブラム・ヴェクスレル
出演/ニコライ・クリチュコフ エレーナ・チャプキナ ミハイル・ジャーロフ マリヤ・パストゥホワ オリガ・ジズネワ
@ちぇっそ@
タグ : フセヴォロド・プドフキン
2009/02/11 10:08 |
ロシア映画
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